大判例

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仙台高等裁判所秋田支部 昭和29年(う)74号 判決

本件住居侵入、強盗傷人の点について起訴状には公訴事実として「被告人は昭和二十八年十一月十五日午前二時ごろ、秋田市茶町梅ノ丁六株式会社秋田ムーヴイーセンター映画館へ窃盗の目的で侵入し同館内を物色中同館宿直員松森典雄同河合章治に発見され、同人等に逮捕されることを虞れ、これを免れるため矢庭に所携の鉄製バリで右松森典雄の顔面を強打し、更に手拳で右両名の顔面を殴打する等の暴行を加へ、よつて右両名の顔面等に各々全治約十日間を要する打撲傷ならびに擦過傷を負わせたものである」と記載し、罪名罰条として「住居侵入、強盗傷人、刑法第百三十条第二百四十条前段」と記載しており、一方原判決をみると、起訴状の「物色中」とある点に関し「同館二階宿直室内を物色し、ついで階下事務室の扉の錠をこじ開けようとしていた際」と判示して、公訴事実を認容し、住居侵入、強盗傷人罪として刑法第百三十条、第二百四十条前段を適用したことは所論のとおりである。

弁護人は起訴状の「館内を物色中」とあるだけでは被告人が窃盗犯人(少くとも窃盗未遂犯人)であることが訴因として特定化されていないと主張するのであるが、「館内を物色中」とは館内において窃盗に着手したことを意味し、この程度の表現をもつても訴因の表示として違法とは認められないし、強盗傷人の起訴が訴因を特定していないとの非難は当らない。また原判決は右「物色中」とある点に関し、これを前記のように具体的に認定しているのであるが、この認定は起訴状の「物色中」とある点を詳しく具体化して判示したのであつて、訴因にない事実を判示したのではないから、もとより正当であつて、違法ではない。

弁護人は原判決認定の前記「二階宿直室内を物色し、」との事実は窃盗の着手とならないと主張するのであるが、「物色」とは前記説明のとおり窃盗に着手したことを意味する言葉であり、原判決引用の原審証人松森典雄、河合章治の各供述(いずれも原審第二回公判調書の記載、以下同じ)検察官に対する被告人の第一回供述調書、司法警察員の実況見分調書によれば、被告人は現金を窃取する目的で原判示映画館に侵入し、二階宿直室において、現金をさがすべく松森典雄の手提鞄を開けて中の物を引き出してみたり、机の「引出し」を開けて中をかき廻したりしたのであつて、原判決はこれらの事実を「物色し」と判示したのであり、これらの事実により被告人が窃盗に着手したことが認められるのである。

なお原判決が「階下事務室の扉の錠をこじ開けようとしていた」判示していること、右事実自体は未だもつて窃盗の着手といえないことは所論のとおりであるが、原判決もこれを右事務室内の窃盗の着手とみているのではない。しかし被告人はその前に二階宿直室において窃盗に着手しているのであるから、その後の階下事務室の扉を開けようとしたときには既に被告人は窃盗(未遂)犯人というべきであるから、被告人が逮捕を免れるため人に暴行を加え、傷害を与えた以上、強盗傷人が既遂をもつて処断すべきである。したがつて原判決が訴因の追加、変更をなさずして強盗傷人の事実を認定しその既遂罪として刑法第二百四十条前段を適用したのは正当であり原判決には所論のような擬律錯誤ないし理由不備の違法はなく、論旨は理由がない。

(裁判長裁判官 中兼謙吉 裁判官 西田賢次郎 裁判官 浜辺信義)

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